クレープが食べたくなったので、一人でクレープ屋さんに行って買ってきて食べました。一人でクレープ屋で買い物をするなんて、30過ぎたオッサンにとっては恥ずかしいことでしたが、作戦はなんとか成功を収めました。勿論、紆余曲折はありましたけどね! というわけで、以下はそのレポートです。
◎唐突にクレープが食べたくなった
皆さんは唐突にクレープが食べたくなることがないだろうか? 僕にはある。甘い物が食べたくなるという話は良く聞くけれど、僕の場合はクレープと断定される。理由はわからない。恐らく、オーソドックスな甘味物の中で一番食べにくいものだからかも知れない。ケーキやだんご、ドーナツなどはスーパーやコンビニに行けば割と気軽に手に入るが、クレープは売っていない。いや、売っていることには売っているのだが、コンビニやスーパーのクレープではダメなのだ。クレープ屋さんのクレープじゃないと、ダメなのだ。そんな稀少さがクレープ欲求を生み出すのかもしれない。
具体的に言えば、僕はクレープの皮が好きだということだ。あの皮が折り重なって生み出される層。彦麿呂風に言えば「デザートのグランドキャニオンやー」といったところか。それを噛み砕く感触が大好きなのだ。コンビニやスーパーのクレープではそれを堪能することができないのだ!!
◎町のクレープ屋さんで買う
その店の名前を『モミリーウィッチ』と言う。ファンシーな名前ということで、ファンシーな店を想像されるかも知れないが、その名の通りファンシーなところである。そこに僕は一人でやってきた。なぜ一人なのかと言うと、友達がいないからである。買ってきてと頼む人もいなければ、一緒の行く友達もいない。それがテキストサイト管理人。…じゃなかった。
さて。
なぜこのクレープ屋に来たのかと言うと、他のクレープ屋を知らなかったからだ。勿論、スーパーなどにあるテナントの軽食コーナーにもクレープは売っている。しかし、そこで買うのはさすがに恥ずかしいと思えた。そこにいるのは親子連れ、婦女子のみで、オッサンなどは一人もいない。いや、荷物持ちに疲れたであろうオッサンが座っていることもあるが、兎に角買い物するには躊躇いのある環境であることには違いなかった。
それにこの店は美味いと評判の店でもあった。味の面でも評価が高いということだ。――美味いと評判だから行く。…そんな民主主義的思想が自分にあったとは少々驚いたが、クレープテンプテーションにでもかかっていたのかもしれない。
◎店にやってきた僕。しかし、そこには驚くべき先客がいた
クレープが食べたくなった。買いに行こう。さあ、行こう――。単純明快な思考回路の元、僕はクレープ屋『モミリーウィッチ』へとやってきた。しかし、そこには午後の2時という空いていそうな時間なのにもかかわらず、先客が四人もいた。やはり評判の店、侮れない。
けど、僕は意を決して並んだ。というか、今更引き返せるか。開き直りである。人間、開き直ってしまったら強い。そう実感する。僕は強い。周りの目も気にならない。気にならない。一人でクレープを買いに来るオッサン。気にならない気にならない。南無阿弥陀仏…。
と、ここで僕はある事実に気付いた。並んでいた四人の内の一人が男性だったのだ。スーツに身を包んだバリバリのサラリーマンっぽい容姿の彼は、一人でクレープ屋に並んでいるのにも関わらずとても堂々としていた。
――ベテランだ。
僕は直感した。男が一人でクレープ屋というのは普通にありなのか? とさえ考えてしまった。この男性の威風堂々とした様を見ていると、僕という人間がとても小さく思えて情けなくなった。クレープ屋に一人で並ぶことなんて、ちっとも恥ずかしくないよって。そう思えた。立派だった。
けどやっぱり他に並んでいる女性の視線がこちらにチラホラ、チクチク。
(あら、あの子、一人でクレープを買いに来たのかしら?)
(いやねえ。男が一人でクレープを買うなんて)
(そうそう。クレープというのは女の食べ物よ)
(そうよねえ。オホホホホホ)
視線はそう語っているかのようだった。僕はたまらず赤面して俯いた。しかし、そんな状況下でもスーツの男性は動じていなかった。女性の視線は間違いなく、スーツ男性にも向けられていたが、まるで気にしていなかった。
――ベテランだ。
再びそう思った。僕は彼がとても格好良く思えた。
一人、二人と列が消化され彼の番になった。彼はまるで英国紳士のような淀みのない華麗な足取りで、注文へと向かった。効果音を付けるとするなら、間違いなく「スッ……スッ……」という具合だったろう。そして、言った。
「生小豆ロール一つ。トッピングは白玉で。お持ち帰りじゃなくていいです」
――何もかもが完璧だった。通としか思えないメニューチョイス、淀みのない発音。無駄のない注文の仕方。しかも、お持ち帰りの否定。言われてもいないのに否定するなよと。
見ると、並んでいた女たちがクスクスと笑っている。そりゃあ、そうだろう。英国紳士が生小豆ロールにトッピングの白玉だ。日常の中の非日常という感じで、アンバランスな面白さがそこにはあった。しかし、彼はそんな揶揄目線をまったく気にしていなかった。
自分の世界。ATフィールド。注文の品を受け取ると、それを右手に持ったまま、英国紳士の足取りで町へと消えていった。
――僕はなんて矮小なオッサンなんだ、と思った。まったく下らないことで、恥ずかしがっていたものだと。別に一人でクレープを買ってもいいじゃん。お持ち帰りをしてもいいじゃん。トッピング白玉してもいいじゃんと。
そんなこんなで僕の番が回ってきて、覚悟を決めた。堂々としていればそれでいいんだと。男らしく注文して受け取って帰ればいい。周りの目なんか気にするな。よーし、行くぞ。
「フレッシュ苺生クリームいちごクレー……あ、とにかくそれ下さい(メニューを指さす)」
うん。噛んだ。恥ずかしかった。赤面した。注文の品を受け取って、そのまま店員の顔や店の様子を見ることもなく、逃げるように帰ってきちゃったさ。
◎まとめ~買ってきたので食べる

なんだかんだあったわけだが、お持ち帰りのクレープはとても美味だった。皮の歯応えとクリームと具材の三重奏は感動さえ覚えた。ぶっちゃけ、衝動的に食べたくなったものを食べたのだから美味いに決まっているわけだけどね。まッ、これは人間ではなく動物の行為なんだけどさ! 本能に従っているだけに爽快感は最高だったさ! ああ、そうさ!!
~この文章を読んでいるクレープ好きの女性へ~
オッサンは恥ずかしい思いをしながらクレープを買っています。もし、店で一人でクレープを買う男がいたら、その人はとても恥ずかしがっていると思ってください。勿論、例外もあるでしょうけど、大抵は恥ずかしい思いをしている筈です。けども、それくらいまでして食べたいということを認めて欲しいのです。だから、笑わないで微笑ましい笑顔でその行為を見逃してあげてください。見てみないフリをしてあげてください。
そして、もしそれがもみ上げのちょっと長い、目つきの悪い、テキストサイトを運営してそうなオッサンだったら、「ひょっとして、ほいみんさんですか?」と声をかけてみてください。もしそうだったら、喜んで「そうです」と答えましょう。
僕はクレープが大好きです。このテキストを読んで、クレープが食べたくなったと思って頂けたらとても嬉しいです。長いこと読んで頂きありがとうございました。