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2007年05月11日 / 1000万や2000万の借金ならどーってことないのになー

 少し前に、「体験してようやく理解する人間は凡夫」ということを書きました。

 人間というのは学習できる動物だから、失敗を繰り返して成長していくものだ、という話は良く聞きますが、現実はそう甘くはないです。物事の多寡にもよりますが、一度失敗するとなかなか立ち直れません。それを修復し、再チャレンジするにはもの凄い労力が必要です。失敗のペナルティにしてはあまりにも大きい労力です。

 例えば僕の知人に「避妊しなかったから彼女が妊娠=堕胎」となったヤツがいます。ヤツはそれを教訓にキチンと避妊するようになりましたが、そうなってからではどうにもこうにもI can notなわけです。

 馬券で凄まじい金額を負けただの、会社に何千万単位の損害を与えただの、そういう失敗も宜しくないです。勿論、そこから学習できることはありますが、失敗によるダメージの方が遥かに大きいです。

 「失敗した、けど次頑張ればいいや」というのは、自分を慰める為の免罪符にしかなりません。そんなことよりも、従来の何十倍もの労力をかけて、その失敗を取り返すことを考えないといけません。

 頭のいい人は、先人の失敗を見て学習します。先人の失敗を自己のそれと置き換えることで学習するのです。

 そう、大抵の失敗事項というのは先人が既に経験済み。我々はその失敗の歴史を見ることができる。そこから学習することができる筈なのです。

 が、物事というのはそんなに単純なものでもないわけで。

 だから、「体験してからようやく理解する人間は凡夫」ということなんですね。


 ……。
 …………。
 ………………。

 もう10年以上前の話だ。

 僕は当時、トラック運転手の助手というバイトをしていた。ドライバーに同行し、荷の上げ下ろしをしたり、伝票にサインしたり、運転手の話相手になったりと、そんな感じの仕事だった。

 こうやって書くととても地味な仕事かも知れないが、実際の内容は結構派手だった。一校分の教科書の運搬だの、塾の2教室分の机と椅子の運搬だの、コンサート会場の器具一式の運搬だの、NTT某所の引っ越し荷物の運搬だの、とにかくバラエティ豊かだった。「やっぱ地味じゃん」という突っ込みは受け付けないのであしからず。

 さらには、ドライバーがその日毎に変わっていたので、毎日が新鮮だった。様々な人と1日コンビを組んで仕事が出来たので、それは面白い経験だったなぁと思う。なぜなら、そこには様々な人生があったから。

 ……。

 その日のドライバーは中老くらいの男性だった。会社の作業着に自前であろう緑色の帽子を被って、僕の前に現れた。

 「勅使川原です。よろしくー」
 「よろしくお願いします」

 勅使川原さんは、この会社に入ってからまだ4日目なのだと言う。ぶっちゃけ、僕の方が先輩だった。3倍以上も歳が離れた後輩というのも、なんだか不思議な感じだったけど、勅使川原さんは異常にコミュニケーション巧者だったので直ぐにうち解けていった。

 伝票の使い方やら、荷の上げ下げなど、僕の方が詳しかったので、勅使川原さんに教えながら、その日の仕事を消化していった。途中、荷物を置き間違えたので戻って取り替えてくるなんてアクシデントもあったけど、それ意外は順調に進んでいた。

 「1000万や2000万の借金ならどーってことないのになー」
 「……?」

 もの凄く唐突に勅使川原さんが言った。僕には何の話かまったくわからず。借金? 1000万? と、頭の上にハテナマークが浮かんでいた。

 「バブルが弾けてさ。俺の会社も飛んじゃったのよ」
 「はあ」

 聞けば勅使川原さんは、この会社に勤める前は会社の社長をしていたのだと言う。結構やり手で好調時には相当儲かっていたとかナントカ。

 けど、それをあまりにもあっさりと話すものだから、僕はにわかに信じられなかった。
 「会社売って、家売って、車(ベンツ2台)売って、ぜ~んぶ売って、ようやく借金返し終わったんだ。去年1年間は裁判で全部消えたよ。従業員も30人くらいいたけど全員解雇。まあしょうがないよな。で、何も残らず全て消えたのさ」
 「……」

 良く分からないが壮絶な話だった。バブルが弾け、借金が二桁億になり、どうしようもなくなり、すべてがなくなったのだという、まるで桃太郎電鉄みたいな話。そりゃ社長経験者なら話上手だよ。コミュニケーション上手な訳だよ。

 会社が好調時には銀行の支店長にクラウンをプレゼントだとか、台湾で作らせた原価50円の帽子が軽井沢で3000円で飛ぶように売れただとか、なんだかおかしな世界を勅使川原さんは語ってくれた。いけいけゴーゴージャーンプ、みたいな。まるで漫画。(ちなみに勅使川原さんが被っている帽子は↑のものらしい)

 最近、バブル景気を振り返るような番組が結構あるけど、その中で話しているようなことを実際に耳にしていたというわけです。なんというか、別世界ですよ、これは。

 もしかしたら、この時僕は単なるホラ話を聞いていたのかも知れない。純心な青少年は騙されていたのかも知れない。ただ……なんていうんだろう。風格というか、雰囲気というか、苦難な出来事を乗り越えたような含蓄が勅使川原さんの話にはあったんだな。ホラ話とは思えない深さがそこにはあったんだな。だから多分、本当の話だったのだと思う。

 そんな元社長が今はただのトラックドライバーですよ。もの凄い落差。人生ゲームか! 生活水準だって相当落ちたに違いない。普通の人には耐えられることではない。

 けど、(昼食を買う金もないので弁当持参の)勅使川原さんは、そんな暗い話をメチャクチャ明るく話した。良く分からないが達観していた。まるで他人の笑い話のように。その不幸を自分が楽しんでいるかのように。揚々と話した。

 ……。

 この時、僕は「吹っ切れているんだな」と思った。気持ち切り替えないと前には進めないわけで、勅使川原さんは勅使川原さんなりに前に進もうとしているんだろうと。

 けど、その考えはすぐに改めた。築き上げた財産が全てなくなって、耐えられる人間なんているわけない。これが漫画やアニメなら、困難を乗り越えて成長する物語になるのかもしれないけど、現実はそう甘いもんじゃない。実際には相当弱っている筈だ。だから、それを見ず知らずの他人に話すことで、少しでも緩和しようとしていたんだ。――伏線も何もなく、いきなり身の上話を始めたのがその証拠じゃないか。

 ……。

 そして、その日の仕事が終わった。

 勅使川原さんは最後に近々起業する旨を僕に話してくれた。トラックを集めて運送業をするらしい。今働いているのは実習みたいなもので、これから起業する為の勉強だとかなんとか。昔のコネでトラックを集めるとかナントカ。物を作っても運ばないと商売にならないので、運送業がいいとかナントカ。好不景気に左右されないとかナントカ。

 ――物が売れなきゃ運ぶ物だってないし、燃料費の値動きだって不安定だから、運送業だって厳しいよ。

 と僕は思ったけど、何も言えなかった。こんな若造が何か言ったところで、その言葉に重みがあるわけもなく。無意味に過ぎないと思ったから。

 その日以降、勅使川原さんには会っていない。

 ………………。
 …………。
 ……。

 勿論、失敗したくてしている人間なんていません。自分は過ちを犯さない、自分は学習していると信じている筈なんです。

 それはそれで尊重します。

 だけど、もうちょっとだけでいいですから、他人のことを見るようにしてもらえたらいいなぁと思います。

コメント

何かジーンと熱いものがこみ上げてきました。面白いと言うか、考えさせられると言うか、そんな話ですね。

この手の文章は自分の筆力のなさが悔しくなりますね……。もっと良く書けるイメージなのですが、できあがりはそれよりも2~3割劣化しているという。
ちなみに、このサイトが始まる1年くらい前の話です。

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