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2007年11月08日 / ○がいた

 俺には○がいた。

 それ自体は特になんでもなく。ごく普通のことであり。特筆すべき点は何もないのだけど。ただ一つだけ他と違う点を挙げるとするなら、それは○がとてもガイキチな奴だったということだった――。

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 ………………。

 小学校までは普通の奴だったけど、中学に入ってから歯車が狂いだした。

 世界には存在しない言語を使い、生活リズムが常人のそれとはズレ、常識感覚もなく、一言で言うなら破天荒。よく漫画とかで破天荒なキャラクターが出てきて人気したりするけど、実際に近くにいるととても大変なわけで。それはもうとても言葉に表せるレベルではなく。

 得意技は逆切れと居直り。常識的な論法で説き伏せることは不可能。かかわったら最後なので、一切かかわらないのが正解。初見の人間でも容赦なくブチ切れるし、理不尽な言い分を理不尽と思わず吐き出す。

 また、部屋の掃除が出来ず、家事洗濯の類も一切できない。部屋は散らかりっぱなしで、脱ぎ散らかした衣服で溢れ、テーブルは灰皿替わりのコップや空き缶で溢れる。

 ただ人とのコミュニケーション能力だけが高かった。潜在的なのか、それとも計算しているのか、人と接するのがうまく、その能力で今まで生きてこれた。

 男に困ることがなく、15歳の時に妊娠、16歳の時に出産。数年後に離婚。復縁を迫られるがこれを拒否。その後、何人もの男性との交際を繰り返す。唯一、利口だと思った点はその後は出産していない点くらいか。犯罪行為に手を染め、警察のお世話になりまた金がかかり。

 家には帰ったり、帰ってこなかったり。時には数日、数ヶ月、数年帰ってこないことも。何処で何をやっているのか不明で、すっかり忘れた頃に帰ってくるから俺がつけたあだ名は時限爆弾。そのうち、千葉の海で藻屑になっている姿が発見されるんじゃないか――と当時は思っていた。

 当時の僕はそういったことをまだ理解していなかったので、お金を貸してそれが帰ってこなかったり、理不尽な物言いに頭を悩ませたりと、とにかく辟易していた。普通に死ね死ねと思っていた。視界に入ってくるな。それこそが平穏な生活を過ごす為に必要なことである――と。

 何事にも動じず、精神的に変化することがなく、要するに何も考えていない。そんな奴だと思っていた。だが、それはどうやら微妙に違っていた。

 ある日、恋人と別れたことがきっかけで近所の橋から飛び降りてしまった。10数メートルほど落下しズドン。

 その話を聞いた時、俺はまた迷惑をかけやがってと思った。同情的な気持ちには何一つなれず。両親の心配をするのみで、奴に関しては何一つ思うことがなく。もう既に奴に望むことなんてなかったけども、それでも他人に迷惑をかけるなとは思っていた。願望として、それだけがあった。

 けど、そんな想いは無惨にも打ちひしがれたわけだ。奴の打ち上げた壮大な花火。その後の処理云々。大変な手間が我々を襲ったわけで、それでまた寿命が縮んだ。もう我々に残された時間は少ないだろう。長生きなんて不可能だ。事件を隠蔽したり、周囲には違う話をして誤魔化したり、かくかくしかじかの費用がかかったり。

 橋から飛び降りるなんて大馬鹿野郎である。消えるならひっそりと消えろ。人に迷惑をかけるな。もっとスマートにしてくれ。

 ただ、それでも。なぜか普通だった頃の姿が回想された。まだ奴が小学生だった時の話。様々な思い出が回想され、それはまるで少年漫画のようだった。楽しく遊んだ思い出、馬鹿やった思い出、悪さをして怒られた思い出。夕焼けに奴の顔が浮かび上がり何やら笑顔でこちらを向いている。ばかやろう、おまえは大バカヤロウだよ。やるだけやって勝手に散りやがって。いくならお前が迷惑をかけてきた相手に少しでも恩返しをしてからにしろってんだ。ばか、あほ、まぬけ、どじ、おたんこなす、お前のかーちゃんでべそー!

 ――ってまぁ、ぶっちゃけ生きていたんだけどね。

 そうだ。この手のタイプはゴキブリ並にしつこいのだった。そう簡単にくたばるわけがない。だから行方不明にもならないし、橋から飛び降りたくらいでは死なない。普通なら頭から落下して即死だろうけど、そうはならない。踵とケツを骨折するくらいで済んじゃったわけだ。

 さすがに入院している間は大人しかったけど、普通に退院した後は、それまでと変わりのない傍若無人ぶりを再び繰り返すのであった。飛び降りを機に更生したなどというオチなどあるわけがなく。

 苦悩する日々は続くのであった。終わり。

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