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2008年03月11日 / サマー

 夏が来ると思いだす。

 山田は高校時代の一番の友達だった。毎日よく話していたし、莫迦やったり、アホやったりしていた。学業に対しても、お互いに切磋琢磨の関係で本当にベストフレンドと言えた。

 しかし、高校を卒業すると大学も違うわけでお互いに疎遠になっていた。彼は東京、僕は埼玉。彼は一人暮らし、僕は実家通い。疎遠になる条件は揃いすぎていたわけで、それでもたまにメールを交換したり、電話したりといったことはしていた。

 そんな彼と大学1年生の夏休みに久々に会うことになった。他の友達2人と上京し、彼の家を訪問。久々――とは言っても半年ぶりだが、彼の印象はガラリと変わっていた。高校時代はしっかりとした性格で落ち着きもあった彼が、軽さで飛んでるだけの軽薄な男に成り下がっていたのだ。チンピラみたいなシャツ。中途半端に染めた髪の毛。スーパーフリーの和田さんみたいにギラギラした目。
 楽しい大学生活は、彼を遊び人に変えてしまったのだ。聞けば同じサークルの彼女をゲットしたらしい。大切にはしているようだが、指が何本入るようになったといった猥談を愉快にする彼を僕は幻滅した。そりゃあ、今まで学業や部活動に縛られた生活をしていた中から自由な大学生活に突入したのだ。多少、ハメを外すのもいいだろう。しかし、彼は朝から晩まで遊びまくり。遊んでいない時間はバイト。授業にもろくに出ない。高校時代の凛とした彼は死んでしまったのだ。僕はガッカリしてしまった。

 それから2年が経った。縁あって鈴木という友達とよく連むようになるのだが、その鈴木の友達から山田の名前が飛び出した。鈴木と山田は同じ大学だったので、確かに繋がりはあったのだけど、大学といっても勿論広い。それに鈴木は2歳年上。世の中って広いようで狭いと思った。
 山田とは上で会って以来、益々疎遠になっていたのだが、鈴木の仲介あってか久しぶりに会うことになった。あの時は10代だったが、今はもう20代。やっぱり、奴がどうなっているのかというのには興味があったのだ。

 久しぶりにあった彼は平穏さを取り戻していた。遊び人だった彼は落ち着き、かつての深みというか、正常さを取り戻していたのだ。僕はもう手を付けられなくなるくらいに遊び人になった彼を想像していたのだが、今の彼は高校時代のそれに近かった。いや、それ以上の男に成長していた。

 その変化について、そのときの僕はまだ良くわかっていなかった。奴も20歳を越えて、多少は落ち着くようになったのだろうとか、そんな風に思っていたのだ。

 山田、鈴木、僕と、その日は3人で飲んで、てんやわんやの展開になった。意外な繋がりがあったもんだ、と不思議がってみたり、莫迦っ話をしたり、やっぱり猥談をしたりと、やっぱり昔からの友達っていいなと思った。

 そんな中で鈴木が酔いつぶれ眠ってしまった。僕と山田はなんとなく夜の街を散歩してみることにした。4年以上の付き合いってのは長いわけで、なんとなくサシで話してみたいと思ったのだ。

 東京の街はまるで迷路のように入り組んでおり、だけど夜のそれはなぜか神秘的に見えた。人気(ひとけ)が少なく、聞こえてくる音がなぜか気持ちをざわつかせる。まるで異空間だった。

 二人の話はやっぱり雑談のような話しから始まり、アイツは今何をしているのだとか、○○先生は今でも学校にいるとか、鈴木には伝わらない話しで盛り上がった。そんな中で、山田がさり気なく言った。

 「俺さ、ガキできたんだよ」

 その時、僕が彼にかけた言葉は「いつ出産するの?」とか「名前決めたとか?」とかそんなポジティブな言葉だったと思う。何も知らなかった僕は勝手に展開を想像して話しを進めていた。
 僕の話を聞いて山田は一瞬動きが止まったけど、その後絞り出すように言った。

 「堕ろしたんだよ」

 あー……。
 なんていうか、この時、僕は理解したんだ。僕は何も知らないから気持ちを共有することはできなかったけど、彼にもいろいろあったんだなぁって。失敗したのは彼が99%悪いわけだけど、それでも彼なりに考えることはあったようで、それが今の落ち着きに繋がったのだ。

 多分、これは罰なんじゃないかと思う。人間調子に乗りすぎてはいけないのだ。ノリにノってしまうのもいいけど、度が過ぎると天罰が下る。そういうことなんだ。
 そして、彼は血尿が出ただの、彼女の両親にムチャクチャ怒られただのを照れた表情で僕に言った。今はこうやってあっさり話しているけど、苦悩したり、死にたくなったり、殺人犯だと自分を責めたりとかいろいろしたのだと思う。彼の落ち着きは渋みでもあり、老けたとも言い換えることができたのだから。

 付き合うってとても楽しいことだけど、それだけじゃないんだと、僕はそのとき初めて理解した気がした。

 山田はこの件に関して「お互いの絆が深まったから」とポジティブに総括していたが、それは嘘だろう。そうでなければ彼はやってられなかったんだ。自分を追い込みすぎてダメになっていたんだ。

 大学3年生で経済的にも未熟で、二人の選択肢は少なかった。産むためには休学したり、バイトを増やしたり、お互いに両親に援助してもらったりといった多大なるエネルギーが必要で、尚かつ自分の人生に関しての遠回りをしなければならなくなる。これがあと1年か2年後の出来事であるなら、話しは違っていただろう。だから、罰なんだ。

 その時、山田は彼女と結婚すると言っていた。そしてそれは実現した。

 自分にいつか彼女ができたら、とても大切にしようと思った。夏が来ると思いだす。山田と彼女と鈴木と僕――。

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