« 童貞 | メイン | 24時間 »

2007年10月18日 / 芸能人ドキュメントシリーズ第2弾 ~大木優紀編~

 大木優紀はテレビ朝日のアナウンサーである。

 東京都生まれの千葉育ち。裕福な家庭で何一つ不自由なく育ち、その人生はまさに順風満帆だった。

 好奇心が旺盛であり、学生時代には様々なアルバイトにチャレンジした。ちょっと変わったことがしたいという一心で、家庭教師やら、アパレルショップの店員やら、スキー教室のインストラクターやら、数え切れない程のバイトをこなした。

 そんな好奇心から、アナウンサーという道へと進む。日々、様々な人と出会い、様々な番組を作り上げてゆくというアナウンサー。彼女はそれに憧れた。

 だから、大木優紀は当然ように入社試験を受けて、当然のようにアナウンサーになった。

 ※※※

 大木優紀には二人の女子同期生がいる。市川寛子と前田有紀の二人だ。前者は『報道ステーション』でお天気お姉さんとしての地位を確立し固定ファンを増やし、巧者はアイドルアナとしてその人気を高め、週刊誌の女子アナランキングの常連となっている。

 二人ともテレビ出演回数が多く、芸能人風に言えば“売れていた”。だが、大木はそんな二人に比べると一枚知名度が欠けていた。なぜなら、その二人に比べて“華”が足りなかったかだ。

 しかし、そんな大木にチャンスが訪れる。担当していた番組『くりぃむナントカ』のヒットである。最初はネオネオバラエティの深夜枠で始まった同番組であるが、プライムタイムへと昇格し、今では年に数本ゴールデンでの特番も組まれるようになった。

 そこで大木は「大木ちゃん」という個性的なキャラを確立し、バラエティアナとして一気にブレイクする。それだけではなく、番組内のドッキリ企画で『くりぃむナントカ』に対する愛情度が試されたことで、彼女自身の好感度も上がった。

 ゆえに市川寛子と前田有紀、二人に負けずとも劣らないキャラクターを形成し、ドンドンお茶の間にその顔が広まっていったのであった。

 だが、そんな大木に初めての挫折が訪れる。それは入社して2年目から今までずっと担当してきた『題名のない音楽会21』の降板劇であった。同番組はアシスタントを2~3年の周期で変えているので、単に時期的なものによるものという見方も出来るのだが、大木はそれを自分の実力が足りないものだと悔いた。厳しい世界なのだから、もっと頑張らないといけない。じゃないと、私なんて簡単に忘れられてしまう。

 島田紳助に気に入られたことで、ゴールデンの番組を一本増やしはしたが、仕事は数ではない。一本減ったから、一本増やしたことで穴埋めされるものでもない。一つひとつを大事にすることで、ファンが生まれ自分自身も成長できるのだ。

 まぁ、たまにストレス解消で、一人ディナーをしたり、スロットをしたりすることもあるけれど……兎にも角にも大木優紀は頑張っていた。

 ※※※

 今日は『くりぃむナントカ』の収録日だった。

 大木は大好評企画「ビンカン選手権」の収録で、箱根にまで来ていた。以前は収録日が木曜日にかかったりすると『題名』とバッティングしてしまい出演することが出来なかったが、今は自由な身。いつでも『ナントカ』の為に動くことができた。

 普段はスタジオ収録であったり、ロケであっても都内だったりするが、今回は箱根ロケ。即ち大型企画である。当然、ミスは許されないわけで、大木はかなり緊張していた。バラエティなのだから、緊張よりもリラックスが求められるわけなのだが、この企画に関してはそうもいかなかった。

 ビンカン選手権というのは、簡単に言えば「間違い探し」企画だ。解答者達が各スポットを歩く中で「おかしな点(ビンカンポイント)」を探して解答するというシンプルなもの。ビンカンポイントの難易度によって、獲得点数が異なる。文字に起こせば面白くも何ともない企画であるが、演出次第で大化けするのがこの企画の凄いところである。

 そうビンカン選手権のキモは演出である。解答者にいかにバレないように振る舞うか。自身の言動は勿論のこと、細かい目線の動き、空気の流れ、様々なことをチェックせねばならなかった。

 『くりぃむシチュー』の有田哲平他スタッフとも綿密な打ち合わせをし、細かいチェックを繰り返し、現場に違和感がないかを調べ、ようやく本番へと移行する。

 ※※※

 収録が始まった。

 今回の出演者はアイドル枠から『MEGUMI』。ビンカンレギュラーの『土田晃之』、芸人枠から『バナナマン』の計4名である。

 オープニングトークをサクっと収録し、いよいよビンカン選手権本番へ。ファーストステージは芦ノ湖周辺。そこを舞台に激戦が繰り広げられる。

 有田哲平がロッキー、大木優紀がエイドリアンに扮するというお約束のボケを交えつつ、間違い探しが始まった。

 看板に注目してみたり、景色に注目してみたり、お土産屋に注目してみたりする。が、有田もそう簡単にはビンカンポイントを見つけさせない。「エイドリアーン」と叫び、大木とハグ。皆の気を逸らす。

 上田が笑い、MEGUMIが笑い、バナナマンが笑う。スタッフも笑う。しかし、そんな中で一人眼光鋭い男がいた。元『U-TURN』の土田晃之である。

 土田はボキャブラ時代のお笑いブームに乗っかり、かつてはあっちこっちにテレビ出演していたものの、ブームの終焉と共に人気の方も下降。挙げ句の果てにはコンビの解散を余儀なくされ、土田はピン芸人としての道を歩むことになる。

 しかし、土田は腐らなかった。今田耕司を研究し、東野幸治を研究し、ひな壇芸人としての確固たる地位を築き上げた。コンビ時代に『踊るさんま御殿』に出演した際は「いえ、埼玉です」の一言しか喋れなかった土田であったが、今やバンバン笑いが取れる男になっていた。

 土田は再ブレイクの難しいこの業界で、見事にそれを成し遂げたのである。

 一度、地獄を見た男は強い。この『ビンカン選手権』においても、土田はビンカン王として君臨していた。絶対に見つけられないようなビンカンポイントを探しだし解答する。それこそが土田がこの番組に呼ばれた理由であり、また芸人としての“おいしさ”でもあった。

 暫く歩いていると、一行は大島桜の木が植えてある場所に到着した。芦ノ湖が一望でき、その眺めは絶景だった……と言いたいところであったが、季節的にまだ一部しか咲いておらず、寂しさは拭えなかった。

 しかし、そこに一本のおかしな桜が咲いていた。

 東京都知事戦で落選した桜金造氏の扮する桜だった。

 「落ちるってことにビンカンだから」

 上田が突っ込む。

 「終了1分前ー」

 有田がコールする。勿論、簡単な問題に答えてもポイントは低いので、みんなギリギリまで我満する。桜金造やロッキーについて解答するものはいない。

 「30秒前ー。15秒前ー」

 ピンポーン。ここで『バナナマン』の設楽が早押しボタンを押した。

 「スワンが『電波少年』でお馴染みの『Rマニア』が乗っている」

 ざわっ・・・! ざわっ・・・・!

 「ビンカン!」

 有田の正解コール。ビンカンポイントは30だった。『Rマニア』はこのピンポイント出演の為だけにわざわざ芦ノ湖まで脚を運んでいたのだ。ちなみにスワンに乗るのは7年振りであった。

 ピンポーン。ここでビンカン土田がボタンを押す。

 「『Rマニア』の片方が違う人」
 「ビンカン!」

 80ポイントの正解だった。当時はみんなが知っていた『Rマニア』であったが、7年の時を経てみんなから忘れ去られていた。そんな世間の記憶の曖昧さをついた良問題であったが、土田晃之の目は誤魔化せなかった。

 後は誰も難しい問題に正解できず、ナレーションベースで展開した。一番難しいポイントは「落とし穴がある」というもので、日村がお約束の展開で落下した。落ちる時になぜかマイクが外されていたが、それはテレビ上の演出というもので突っ込んではいけない。

 ※※※

 舞台はセカンドステージへ。箱根ユネッサンというお風呂の施設で行われた。

 「どういうことなんだ?」

 「あれ?」
 「「「ワハハハハ」」」
 「危ないよ、あれは危ないよ」

 まずはお約束の簡単問題が映し出される。もはやビンカン選手権レギュラーのゆうたろう氏が出てきたり、お風呂にオッサンがギュウギュウ詰めだったりした。

 「いいですか、皆さん来てください」

 有田がみんなを誘導する。

 「これはドクターフィッシュというものです。古くなった角質を食べてくれるという美容のものです。これがナント中で体験できます」
 「へぇ~」
 「さあ、体験しよう。ということなんですけども」
 「うわ、でけえ」

 水槽にいたのはドクターフィッシュではなく、ピラニアだった。またもやお約束の展開で日村が水槽に落下する。

 「これはドクターフィッシュじゃないんだ。ピラニアだ」
 「ビンカン!」

 お約束の解答をする日村。ちなみに日村が今回呼ばれた理由は、先程の落とし穴と今回のピラニア水槽に落ちる為である。

 各芸能人にはポジションというものがあり、番組に華を持たせる為のアイドル枠MEGUMI、高ポイントも少しは正解して欲しいので解答要員として土田、絵的に面白く演出したいのでドブ顔の日村といった感じある。なお、設楽の役割については後述する。

 「1分前です」

 有田が進行する。

 「30秒前~。さあ、わかったら押してください」

 大木も進行する。

 「10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2……」

 設楽は簡単な問題しか答えられなかった。

 MEGUMIはイチかバチかで、場内にあるイチゴのセットがデカいと答えるが不正解だった。

 一人解答すると制限時間が増えるというルールがあるので、カウントが少し前の状態から再開される。

 「5秒前~、4、3、2……」

 「! わかった!」

 土田が早押しボタンを押した。

 「Aとか、Bとか書いてある奴あるじゃないすか。これ胸のカップ数」
 「ビンカーン!」
 「ポイントはこちらです」

 フリップをめくる大木。しかし、ポイントはエロだった。

 「「「ワハハハ」」」

 一同が笑い、土田が赤面した。

 「なんでですか。これ凄くないですか」

 「「エロ」」

 上田が突っ込み、MEGUMIも突っ込んだ。こういったお遊びがあるのも、ビンカン選手権の特徴の一つだ。

 ここで制限時間終了。正解発表へと意向する。

 「見落としているんですねー。ちょっとあっちの方を見てください」
 「あ、あれ!」

 「真ん中のニセモンだよ!」
 「すげー」
 「こりゃすげー」

 柱が動いている。50ポイントだった。お金がかかることをやっている、というのもビンカン選手権の特徴である。数秒の笑いの為に大掛かりなセットを作るのが拘りだ。

 「それはわかんないなー」

 残るポイント。

 「さて、こちら」

 フランキー為谷が場内にいるというものだった。『フレンドパークII』にレギュラー出演しているくらいの有名人であったが、誰も気付かなかった。

 「はやく見つけてちょうだいよ~。上田さんと目があったんですよ」
 「うわー、わかんねー」
 「フランキーさんは今、群馬にお住まいなんですよね?」
 「群馬の太田に住んでます。5時間かけてきました

 ※※※

 そして、最終ステージへ。舞台はホテル小桶園の宴会場。

 浴衣姿で皆が席へと案内される。上田が座り、MEGUMIが座り、土田が座り、設楽が座……ろうとしたが、なぜか失笑していた。何やら下を見て、笑いを堪えている。

 ――座布団が丸焦げだった。自身の家が自らのタバコの不始末で火事になったことは記憶に新しく、それをネタにした仕掛けであった。そして、これこそが今回設楽が呼ばれた理由でもあった。

 「プライベートなこと思い出すのやめてください」

 駅伝スタイルで料理が運ばれてきた。それは箱根が舞台になっているので、箱根駅伝から元ネタがきている仕掛けだった。

 「土地柄なんですかねー」

 当然、設楽の料理は焦げていた。

 「わかったら押してくださいね」

 ――そして、なぜか近くにニセヨン様の一行がいた。

 ニセヨン様とは『くりぃむナントカ』の準レギュラーであり、韓国のヨン様そっくりさんコンテストで優勝した人物のことである。以前、韓国で収録されたビンカン選手権スペシャルの際に登場したことがきっかけで、それ以来度々出演していた。

 さて。

 しきりなおし。ここで「そっくり歌謡ショー」と題して、八代亜紀さんのそっくりさんである七代亜紀さんの歌が披露された。

 顔はまったく似ていなかったが、歌声は本人そっくりでそのギャップに一同は爆笑していた。

 「あまりに顔が似ていなかったから」
 「うまいなー」
 「ほんと、うまいー」

 パチパチパチ……。

 「続いてこちらでございます。今年、大ブレイク間違いない、この方でございます。どうぞー」

 ……ゆうたろうだった。笑いに包まれる一同。しかし、歌い出すと意外に似ており、これが本職であることを思い出させた。

 「そういやこんな本格的なの聴くの初めてだよな」

 ここでニセヨン様を睨むゆうたろう。以前、大木アナウンサーと前田アナウンサーとの対決企画がディファ有明で行われた際に、前座で相撲対決している経験があり、それ以来の対峙であった。いつのまにか因縁があるような設定になっており、とっくみあいになる二人。そして、そのまま相撲対決へ。

 敗れるゆうたろう。前回の対決の際も敗れているので、これで2連敗であった。

 「1分前~。30秒前~」

 そんなこんなで、有田のコール。

 「まだどなたも答えてません!」

 大木。

 設楽が丸焦げになっている部分を答える。

 続いて、日村が早押しボタンを押す。

 「ゆうたろうさんが、はけたんですけど、マイクを置いて行っちゃった」
 「ふれないで!」

 ビンカンポイントではなく、単なる天然ボケだった。

 続いて、MEGUMIがボタンを押す。

 「七代亜紀さんは、七代亜紀さんじゃない!」
 「え、どういうこと?」
 「あの方が七代亜紀さんではないと?」

 頷くMEGUMI。

 「ドンカン! 失礼でしょ。七代亜紀さんは七代亜紀で大活躍されているんですよ」
 「はい、すいませんでした」

 「5秒前~。4、3、2……」

 ピンポ~ン。

 ここで土田が押した。

 「土田さん!」
 「七代亜紀さんの今歌っていたのは八代亜紀さん」
 「えっ・・・??? ほんと???」

 ざわつく周囲。
 そして、苦虫を噛み締めたような表情を一瞬する有田。刹那で元の司会者に戻りコール。

 「ビンカン!」
 「よっしゃー!」

 正解だった。

 「「すげー」」

 周囲から感嘆の声が響き渡る。ガッツポーズをする土田。先程、七代亜紀さんがモノマネをしていたのは、実はモノマネではなく、本人が歌っているという仕掛けだった。本人が登場し、驚く一同。

 土田はこのカラクリをビンカンに見抜いた。番組側がバレないように、バレないように、有田と大木も最新の注意を払い、わからないように見せていた仕掛けであったが、土田はこれを正解してみせた。

 ビンカン王としての存在感を思う存分にアピールした瞬間だった。

 この時、土田は勝ったと思った。このビンカン選手権という企画は正解すれば解答者側が勝利、不正解ならば有田と大木の勝利という側面がある。本来ならば解答不可能のような問題に正解してしまうことは、番組の面白さを損なってしまう危険性も孕んでいるのであるが、ことビンカン選手権においてはガチンコなので違っていた。

 だが、次の瞬間、土田の顔色が変わる。

 フリップでめくられたのは、2番目に高難易度な部分だったからだ。そう、まだ難しいビンカンポイントが残されていたということだ――。

 (一番、難しい問題じゃなかったのか???!!! 本物の八代亜紀を呼んだことよりも、さらに大掛かりな仕掛けが残されているとでもいうのか???)

 苦労して準備して、綿密な打ち合わせを繰り返して、無事ここまで辿り着いて。大木は最高の結果にほっとしていた。なぜなら、八代亜紀の問題については正解してくれるのが最高の結果だったからだ。

 高難易度である八代亜紀の問題を正解することによる感動。出題者側、解答者側、共に高レベルの方が見応えがある。そして、それこそが始まるテレビ史に残るであろう解答が際立つからだ。

 「まさかのモノを開けましょうか」

 「まさかのモノ?」

 「皆さんビックリしないでくださいね。大木ちゃん」
 「はい」
 「最後はこれだったんです。開けてください」
 「こちらッ!!!」

 「実は国生さゆりもいた」
 「?」

 キツネに摘まれたような表情をする一同。

 「だって朝からずっと……」
 「そう、朝からずっといたのですが……、実はですね。国生さんはカメラに入らないようにずーっと端の方、端の方に。だから、今日の収録、最初からずーっと映ってないんです」

 「えええええええ」
 「マジで」
 「確かに! 国生さんが、あそこ(端の立ち位置)なわけがない」
 「チキショー」

 驚愕するメンバー。

 これぞ、今回最大の仕掛けであった。存在している人物をまるっきり消す。かつてあびる優や加護亜依、田代まさしが問題を起こした時に使われた編集方法である。それを今回、バラエティーのネタとして利用したのだ。

 一見では国生の存在はわからないようになっていたが、良くみると隅の方でちょこちょこと映っているのがわかる。確かに国生さゆりは最初からいた。けども、それを見事に消していたのだ。


右端に注目

 ※※※

 こうして後に伝説と呼ばれるビンカン選手権の収録が終わった。

 アナウンサー大木優紀はこれからも頑張り続ける。いつかテレビ朝日の看板アナウンサーと呼ばれる日を目指して。

 落ち込んだりもするけれど、私は元気です。

 お終い。


2007年04月21日 / 芸能人ドキュメントシリーズ第1弾 ~設楽統編~

 世の中には数え切れない程の芸人がいる。

 彼等は明日のスターになることを夢見て己の芸を磨き続けている。陽の目を浴びるまで芸の刀を研ぎ続けている。

 だが、その研磨が役に立つものは少ない。大抵の者は鞘から抜かれることもなく、歳を重ねやがて錆びてゆく。芸能界という大海原に呑み込まれ、その藻屑と消える。芸能界の荒波を乗りこなせるものは極一部だ。

 『バナナマン』の設楽統したらおさむもそんな芸人の一人だ。『バナナマン』結成から14年。既にベテランとも言える領域。多くの後輩が冠番組を持ち、人気スターとして華々しく活躍している中で、設楽は未だに下積み生活を続けていた。

 だが、いつの日か、陽の目を浴びることを未だ信じていた。そして、それを糧に営業とバイトの貧乏生活を根性で続けていた。絶対に売れてやる! スターになってやるんだ! その一心で頑張っていた。

 そんな設楽であったが、ここ数年、ようやくテレビの仕事が増えつつあった。世間の認知度もアップし、今の芸人ブームに乗っかりつつあった。

 しかし、それは設楽統の活躍というよりは、『バナナマン』の相方である日村勇紀の存在によるものが大きかった。

 今やお家芸とも言える子供の時の貴乃花親方のモノマネ。トドのような風貌、インパクトのあるキャラクター、さらさらキノコヘアー。タートルネックのセーターを使った禁断の鬼頭のモノマネ。テレビ的受けするキャラクターだった。

 またテレビ番組の『リンカーン』で日村がギャルサーに入会するという企画があった時に、番組史上最高の視聴率を取るという出来事があった。これで『バナナマン』と日村の知名度は飛躍的に増すことになる。

 だが、相方である設楽はどうだろうか? 日村に比べ、設楽の知名度は低かった。初期の頃の『ナインティナイン』の矢部、『ずん』のやす、『紳介竜介』の竜介、『ツービート』のきよし、『メッセンジャー』のあいはら、『ペナルティ』のヒデ、そんなポジションに置かれていた。世間でも『バナナマン』の日村ではない方という言い方をされていた。

 誰が言ったか枠無し芸人。そのお陰で『アメトーーク』の枠無し芸人の回にピンで出場することは出来たが、設楽は芸人としてのポジションに危機的なものを感じていた。TBSの特番で料理の腕を披露し、好評を得たこともあったが、芸人として考えればダメだった。

 コンビで相方のみが売れて解散、もしくは事実上の解散をするというケースは非常に多い。『レイザーラモン』しかり、『オアシズ』しかり、『DonDokoDon』しかり。『チュートリアル』もちょっとそんな臭いがする。

 それだけ、この世界は厳しいということである。故に設楽は危機感を覚えていた。なんとかしなければならない。自分のキャラを確立しなければ、生き残れない。どうにかして、芸人としての存在感をアピールしないと、日村は生き残ったとしても自分は危ない。

 そんな焦燥感と、少し忙しくなったことによる疲労、エトセトラ、エトセトラ。

 だから有り得ない凡ミスが起こる・・・・・・・・・・・・・・・

 ※※※

 3月某日。

 ――それは、タバコの不始末による火災だった。

 設楽の自宅の自室が燃えた。消した筈だったタバコ。それなのに、消えていなかったタバコ。悔やんでも悔やみきれない後悔の念。一番やっちゃいけないコトだったのに。設楽はその愚を犯してしまった。

 自室が燃えたのみで、他の家に迷惑をかけることがなかったのが、不幸中の幸いといえばそうなのだが、それでも一部屋丸焦げだった。

 持っていた洋服、写真、PC、CD、DVD、家電、その他一式みんな燃えた。これから収録がある『イロモネア』の為に用意してあったネタ帳もみーんな燃えた。さようなら、かけがえのない思い出達。無事だったのは家族の命と、ドロドロになりつつも生きていた携帯だけだった。いや、家族の命が助かったのは何よりか。

 それでも設楽は放心していた。自分が情けなくなり、半ばやけになりつつあった。ぶっちゃけ、凹んでいた。だが、それでも一家の長として消防や警察に連絡を取り、後始末をし、これからのことを考えなければならなかった。

 芸人として頑張って、家族のことを支える!

 それが設楽にできる唯一のことだったが、今日の今日でそう簡単には頭は切り替わらない。人を笑わせるという稼業に大して億劫になる。こんなテンションで『イロモネア』の収録に向かえるのだろうか。

 いや、大丈夫だと思わなければならない。自分は子供じゃない。嫁だっているし、子供だっている。テレビとプライベートは別個に考える! 今日の収録で100万取ってきて、それでリフォームするくらいの前向きな姿勢でいなくちゃダメなんだ。

 設楽統は強引に頭を切り換えた。前向きに、前向きに。

 ※※※

 ~『イロモネア』について~

 『イロモネア』とは正式には『ザ・イロモネア』というTBSのテレビ特番である。『ウッチャンナンチャン』を司会にすえ、芸人達が観客を笑わし、そのレベルの応じた賞金を得るという番組である。

 芸人達は、観客の中からランダムで選ばれた5人の内3人を『モノボケ』『一発ギャグ』『サイレント』『モノボケ』『ショートコント』という5つのジャンルで、笑わせなければならない。また、最後のジャンルについては5人全員を笑わせなければならない。全てクリアすれば賞金100万円。

 制限時間は各ジャンル1分間。ジャンルは好きな順番で選ぶことができる。また、全てのジャンルに挑戦しなくても、途中で止めることも可能であるが、番組的にそれをするものはいない。

 ※※※

 火事発生から6時間後。

 『イロモネア』の収録の為に、TBSへとやってきた設楽と日村。楽屋でタキシードに着替え、本番を向かえる。本来ならばスーツを着用予定であったが、それも燃えてしまった為にタキシードでの参上である。

 スタジオのメインステージでは司会である『ウッチャンナンチャン』のトークが始まっていた。今でこそテレビのレギュラーは一本もないが、かつてはテレビ会にその名を轟かせた『ウッチャンナンチャン』。それは『バナナマン』がいつか到達したい距離。

 設楽はデビュー当時、25歳くらいで自分の番組が持てると思っていたが、そんなに甘い業界ではなかった。冠番組どころかテレビ出演すらままならず。しかし、下積み生活の長い芸人は強い。『オリエンタルラジオ』や『キングコング』のような若年ブレイク組よりも、『次長課長』や『タカアンドトシ』のような叩き上げの方が生き残る可能性は高い。『バナナマン』もそうあるんだ。若い奴に負けてたまるか!

 胸に秘めた設楽の決意がそこにはあった。

 

 『バナナマン』はトップバッターでの登場だった。トップバッターというのは、番組側からしてみれば大いに期待されているポジションである。勿論、後半やトリの芸人達に比べればプライオリティは下がるが、これで視聴者を掴まなければ速攻でチャンネルを変えられてしまう。だから、それなりに笑いの取れる芸人があてられる。『バナナマン』にとっては名誉あることであった。

 「そういうわけで、まずは『バナナマン』の挑戦でーす』
 「どーもどーもー」

 

 内村光良が『バナナマン』を紹介する。『イロモネア』は6回目の挑戦。過去4回ファイナルステージまで進んでいるが、未だ100万獲得の経験はなし。

 「そういえば、今日大変だったんだよな? 昼間」

 南原清隆がさっそく件について触れる。

 設楽はここで笑いを取りたかった。今は芸人紹介のフリートーク部分であるが、ここで観客の心を掴んでおいた方が本番で笑いを取りやすい。重要な場面であった。

 「うち、火事になってしまいまして」
 「ええええええええ」

 

 観客から青い声が。ドッカーンという笑いを期待していた設楽であったが、観客の反応はドン引きであった。どうでもいいが、ドン引きとは土田晃之の作った言葉である。

 (しまった)

 設楽は心の中で舌打ちをする。空気が凍ったままで本番を向かえても観客は殆ど笑わない。しかし、ある程度掴んでさえいれば、勢いでなんとかなる。だが、その勢いが削がれてしまった――。

 「あのー、原因は何ですか?」

 と、内村光良。

 「タバコのー、不始末です」
 「ワハハハハ」
 「一番やっちゃ、いけないヤツです」

 観客から笑いの声が。設楽は恥ずかしかったが、内心ほっとしていた。これでやりやすい環境で本番を向かえることができる!

 「今日の……6時間前です。だから言うのもなんだと思ったけど、やっぱホットなうちにこの情報を」
 「「「ワハハハ」」」

 大受けする観客達。

 「100万獲ったらどうしますか!」
 「リフォームします!」

 設楽は力強く答えた。

 「「「ワハハハ」」」

 こうして『バナナマン』の『イロモネア』チャレンジが始まったのであった。

 ※※※

 「最初のチャレンジはどれいきますか」
 「「モノマネで」」

 「必ず、これで行くと?」
 「ええ」

 自信に満ち満ちた日村の顔。日村のモノマネといえば、アレしかない。観客もそれを分かっているようで、モノマネコールをした直後にもう笑いが起きている。さっきのトークで掴んでいた分、やりやすい環境になっていた。良い流れだ。

 「再放送なんじゃないか、と言われるかもしれませんが」
 「「「ワハハハ」」」
 「さあそれでは。モノマネで『バナナマン』のファーストチャレンジです。スタート」 「えー、子供の頃の貴乃花。あのねー、ぼくねー」

 「「「ワハハハ」」」

 9秒でクリアだった。鉄板ネタとは言え、空気の状態が素晴らしすぎた。

 「「よし」」

 「続いてはどのジャンルでいきますか?」
 「「ショートコント」」

 「ショートコントでのセカンドチャレンジ、スタート!」

 「電車!」
 「ガタンゴトンガタンゴトン」
 「(車内放送の声色で)次は新宿~新宿で~、ございます」
 「あー、次か」
 「(車内放送の声色で)[ブッ]あ、屁こいちゃった」
 「「「ワハハハハ」」」
 「クリアー」

 11秒だった。流れは確実に『バナナマン』に向いていた。

 「いけるいける!」

 他の芸人達からも応援の声が響く。

 「逆にがっついてないよね」
 「そう、がっついてない。何かを――超えた?」

 内村の指摘、それは設楽の火事のことであった。あの経験は苦いものであったが、今はそれが生かされている? そのお陰で余計な力が入らず、芸に集中することができている?

 設楽は何かしらの領域ゾーンに入っていた。もしこの世界に笑いの神様がいるとしたら、この時、彼には笑いの神様がついていたのかも知れない。そんな領域にいた。

 「それではサードチャレンジのジャンルを選んでください」
 「「一発ギャグで!」」

 「さあ、それではサードチャレンジスタート」

 「それではジャンケン大会いきますよー。せーの」
 「最初のキッスは15の春!」

 「「「ワハハハハ」」」

 10秒でクリア。これも鉄板ネタといえば、鉄板ネタであったが、まさか10秒でクリアできるとは。設楽自身ですら、この展開に驚いていた。そして、100万円が見えつつあった。この流れなら、もしかするともしかするかもしれない。いけるかもしれない。

 「それではジャンルを選んでください」
 「「モノボケで!」」

 「ええええー」
 「サイレントを最後に」
 「マジでー?」

 「「「ざわっ・・ざわっ・・・」」」

 観客も他の芸人も司会の『ウッチャンナンチャン』も驚いていた。サイレントを最後に残してのモノボケ選択。なぜなら最後のチャレンジでは5人全員を笑わさなければならない為、言葉を発することのできないサイレントでは非常に不利だからである。3人笑わせばOKなフォースステージまでにサイレントを消化しておくのが、100万獲るためには必須条件とも言えた。

 「それでは参りましょう。モノボケでのフォースチャレンジスタート!」

 「あっ、そっちかーい」
 「「「……」」」

 ここで日村が本日初滑りをしてしまう。ピクリとも笑わない観客。これはヤバかった。意味不明な日村の奇行。空気というのは一瞬で凍り付く時がある。その状態になっていた。そうなってしまうと、ちょっとやそっとのネタでは笑わすことができなくなる。焦る日村。残り時間で修正できるのか?

 だが、この日の設楽には笑いの神様がついていた。跳び箱の上の段をおもむろに中央へと持ってくると、『メッセンジャー』黒田のような無表情な顔でこう言った。

 「これー、テーブルにつかえるんじゃないかな?」

 「「「ワハハハハハ」」」

 日村が滑ってからわずか7秒での逆転劇。再び温まるスタジオの空気。ミラクルだった。

 「旬のネタでやってきましたね」
 「こうなったら本当にリフォーム代稼ごうかと」

 「さあ、トップバッター初の100万円獲得なるか。サイレントでのラストチャレンジスタート!」

 

 ラストチャレンジのサイレント。なぜ二人は不利なサイレントを最後に持ってきたのか? 100万円を取ることよりも、確実にファイナルまでいって自分達のオンエア時間を少しでも確保する為という芸人もいることはいるのだが、設楽と日村には秘策があった。だから、これは攻めのサイレント残し!

 『くりぃむナントカ』で次長課長がやっていた転け芸! あれを独自にアレンジしたネタ! 二人には自信があった。それに今は笑いの神様が降臨している! 何をやっても滑らないオーラ! 芸人としての風格が漂っていた!

 サイレントでは一言も言葉を発してはならない。故に複雑なことをやろうとすると、観客には伝わらず笑いが取れなくなる。そういう時、強いのがベタである。

 それは『バナナマン』がバナナで滑る、というベタにも程があるネタ。だが、設楽と日村には自信があった。サイレントで最後クリアしてこそ、カッコイイ。それが彼等達の美学!

 そして、日村はバナナで転ぶというパントマイムを見せた。見事な転び方であった。非常にベタだった。

 「「「ワハハハ」」」

 一人が笑い、二人が笑い、三人、四人と笑った。

 「――!」

 ――しかし、最後の一人が笑わない。表情が動かず、ネタに反応しない。

 設楽と日村は焦った。サイレントでは爆発させるような笑いを取るのは難しい。だので、短期決戦。最初の30秒が勝負だと思っていた。そこで一人の取りこぼした。

 一人の取りこぼし、というのは『イロモネア』では非常に厳しい事態である。一度笑わなかったら、1分くらいは全然笑わない。表情が固まってしまうと、同方向ではダメで別方向の刃が必要となる。しかし、1分という制限時間でそれを成すのは厳しい。

 これに多くの芸人達が破れてきた。かつての『バナナマン』もそうであった。焦りが焦りを呼び、あっと言う間に時間が訪れてしまい終了。何もできない。そんなパターン。

 だが、今の設楽統には笑いの神様がついていたのだ。

 残り16秒。焦燥している日村を横目に、設楽はタキシードのポケットからドロドロになった携帯を取り出し、観客に見せた。

 「「「「ワハハハハハハ」」」」

 「クリアーーーーーー!!」

 スタジオに鳴り響く内村の声。

 6回目のチャレンジにて、『バナナマン』初の100万円獲得の瞬間だった。

 「「よっしゃーーーーーーーーーーーーー」」

 抱き合う設楽と日村。長い芸人生活の中で、始めて大きなスポットライトが当たった瞬間だった。

 この100万獲得は日村ではなく、設楽の功績が大きかった。設楽はそれが嬉しかった。芸人として、始めてテレビで活躍できた気がした。

 「俺、知らなかったよ、こんなの(ドロドロ携帯)持ってるなんて」

 「いやまだ。消防や警察と連絡とらないといけないんで」
 「おまえ、これ、ある意味宝物だよな」
 「燃えた近くにあって、つかえねーだろと思って見てみたら生きてたんですよ」

 そういって携帯を開く設楽。半開き以上は開かなかったが、携帯は確かに稼働していた。

 「今日、火事の話しにきたの?」

 と『次長課長』の河本。

 「最後の一人、一切食いついてなかったのが、これ(携帯)で大爆笑」

 と内村。

 「こういう形ではありますけど、僕ら始めて100万獲りました」

 二人の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。感無量である。

 「おめでとーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 「ありがとうございます! 火には充分注意してください!

 ※※※

 ~エンディング~

 結局、今回100万円を獲得したのは『バナナマン』のみであった。それは今回の『イロモネア』が『バナナマン』のものであったことという意味でもある。いろんな意味で風が吹いていた。

 「終わってみると、『バナナマン』のみ100万」
 「「「おおお」」」
 「ありがとうございます!」
 「奇跡の携帯、見せてもらっていいですか?」
 「これです」

 「写メ取りますか?」

 

 「始めてだな、記念写真とるの」
 「いくぞー」

 パシャッ!

 芸歴は既にベテランの領域だけど、テレビ上ではまだまだ出始めたばかり。この芸人ブームがいつまで続くかはわからないけど、設楽統と『バナナマン』なら大丈夫。だって、彼は奇跡の芸人だから。今回『イロモネア』で見せた奇跡。笑いの神様に見初められた彼なら、きっとこの厳しい芸能界を乗り切れる! だから、大丈夫。

 芸人、設楽統の人生はまだまだ始まったばかりだ!

 お終い。