ひぐらしのなく頃に祭アルケミスト/AVG/6800円/2007年2月22日発売)
◎はじめに

パッケージ画像 超人気同人ゲーム『ひぐらしのなく頃に』のコンシューマ移植版である。同人ゲームがコンシューマに移植されるというのは、過去に数件あったけども、ここまで大規模なのは初めてということで、大変な注目作なのである。
 同人時代からとにもかくにもひぐらしひぐらしと、まぁヒグラシストの多かったこと、多かったこと。口コミ、ネットコミの凄さというのを改めて思い知ったわけでして、その後の漫画化、CDドラマ化、アニメ化のメディアミックスな展開を見ると、仕掛け人は『こち亀』の両さんなのではなかろうか、と思うくらいですわなぁ。
 内容は知らずとも、『ひぐらし』というキーワードだけならかなりの人が知っているのではなかろうか。
 まさしく、『電車男』や『鬼嫁日記』の同人ゲーム版。私自身が、別にゲーム作っているわけでも、ブログ更新しているわけでもないけど、なぜか羨ましいと思ってしまうま。
 ちなみに私は原作もプレイしていたりします。それなのに購入した理由としては、音楽一新、グラフィック一新、声優の起用、新シナリオの追加などなど、それなりに手がかかっていると思ったから。あと、お気に入りのシーンを声付きで見たいと思ったのもあるかな。ただし、諸刃の剣足りうる危うさも感じていたわけで、鉄板ではないと思ってた。完成された作品を下手に弄るとロクなものにならない、というのは御存知の通り。
 なお、今回はコンシューマ移植の感想と、原作の感想とを織り交ぜながら進行していきまする。
◎ストーリー紹介

 舞台は昭和58年夏の雛見沢村。人口2000人にも満たない小さな村。そこで毎年起こっている連続怪死事件。巨大ダム計画を巡る闘争から繋がる死の連鎖。生きている筈の人間がいなかったり、死んだ筈の人間が生きていたり。この惨劇は一体何なのか。そもそも一体何が謎なのか。自分の手で考え、切り開くべし。
◎キャラクター

ひぐらしオープニング 一言で言うなら濃い。シナリオが長いというのもあるけど、登場キャラクター全てについて詳しく感想を述べられるくらい個性的で面白い。この手のゲームも三桁プレイしていると、さすがに被るというか、何処かで見たことのあるような感じのキャラが出てくるモンだが、この作品は別格。いやあ凄い。だって、どうでもいいようなキャラクターが不在なんだもの。
 皆それぞれの背景をとても大事にしていて、飽きさせない。どのキャラクターが一番好きか? という質問に対して熟考してしまうくらい。また、どのキャラクターが一番嫌いか? という質問に対しても熟考してしまう
 まぁ、ギャルゲーの皮を被っている別物だからという理由もあるのだけどね。ギャルゲーっていうのは、いわゆるギャルゲー仕様のキャラクターになってしまうのだけど、今作はそれに囚われる必要がないわけで。新鮮である強みというのはある。
◎シナリオ

ひぐらし 私が今までプレイしたゲームで一番テキスト量が多いと感じたのは『ハローワールド』なのだけど、今作はそれを越えている。プレイ時間70時間ってのはさすがに凄い。これはじっくりプレイする学生向けだ。社会人にはちょっとシンドイ。そういう意味で、CEROの17歳以上指定がかかっているのは惜しい。作中で明記はされていないが、多くの登場人物が中学生以下なのだから、中学生にはプレイできるようにしてもらいたかった。それでこそ、コンシューマ移植の意義がある。原作はプレイヤーに想像させる恐怖が大半だから、もうちょい頑張れば実現できたと思うのだけど。ネクロフィリアな描写があるわけでもないしね。カニバリズムはあったが。
 まぁ、とにかく長いわけですよ。普通の社会人にプレイするのは無理。ドラゴンボール全42巻の一気読みとかさすがにできない。原作は半年に1回、計8回に分けて(1回落ちてますが)公開されたわけで、ちょっとずつ楽しむことができたけど、それがいっぺんに出てくるわけだからなあ。これは積まれる可能性が高いよ。
 長いとはいっても、無駄に長いということではない。それぞれのシナリオにテーマがあり、必要性を感じさせる。だから、時間を割いてプレイする価値は充分にある。
 ただし、追加シナリオの盥回し編と憑落し編はいらない。それぞれのシナリオにおけるテーマはわかるのだけど、ライターの力量が追いついていない。これは原作者竜騎士07氏、OKすべきではなかったと思う。登場キャラクターを自分のモノに出来ていないし、テキストも中途半端。みっともない。特にキャラクター。考えられない台詞を言ったり、頭が悪くなってたりと、操縦できていない感じ。プレイするのが、ちょっと苦痛だったよ。
 原作の最終話である「祭囃し編」に変わる「澪尽し編」はギリギリ許容範囲内か。けどこれも「祭囃し編」が発表された後に作られているわけだから、それよりも面白くならなきゃダメな筈。「祭囃し編」を読んで、ダメなところを良くして、良いところをもっと良くすればいいわけだから。このアドバンテージは活かして欲しかった。なにせ、新シナリオを謳っているわけだから。そこに注目が集まることもわかっている筈だし。好みはあるかも知れないけど、「祭囃し編」よりも確実に面白いということはない。だから、新シナリオを読む為にこの作品を買うというレベルにはなっていない。
◎システム

ひぐらしゲーム画面 原作は真相が最終話まで明かされなかったので強制的に推理させるシステムであったが、今回は一作で完結。推理をしてもらうという意味では分割もあり得たのかも知れないけど、どの道原作は完結しているわけだからな。移植に際して推理を楽しむシステムを作るのは無理だったわけで。そこは残念。
 まぁ、AVGとしての基本的なシステムは良くできている。ここら辺は原作よりも上。セーブ数が100あるのは嬉しいし、オートセーブの機能もわかりやすい。各種インターフェースも良好。原作でのノベルシステムではなく、オーソドックスなAVGシステムになっているのも問題ない。
 ただしゲーム的なシステムは×。原作では1話から最終話まで選択肢なしでプレイさせるシステム、コンシューマではそれを選択肢で繋いでいるのだけど、チャート管理が成功していたとは言えない。意味不明な選択肢で分岐させるし、選択肢の内容も首を傾げるものが多い。また一個しかない選択肢も多い(笑) 選択肢があることで原作よりも面白くなる(売れる)、と思うから導入したと思うのだけど、これは如何なることか。面白くなるどころか、足枷になってるじゃないか……。
 また、原作では秀逸だった演出も、コンシューマでは微妙な感じに。「嘘だッ!!」や「くけけけ」の辺りまでは良かったけど、あとは福本信行みたいなギャグになっていたのが残念。澱んだ目の立ち絵をギャグシーンに使ったりとかのセルフパロディも、楽しければ良かったが楽しくなかった゚:・( つдT)・:゚。 かわいいモードのレナが登場する時のぽわわんとした効果音真面目なシーンで使ったりとかね。あと、ギャグで使う爆発音と真面目な爆発音が同じだったりとか。笑っちゃうじゃんか…。
 それと、誤字脱字はテキスト量が多いので仕方がないけど、同じ作中で的を得たり、的を射たりするのが気になった。一人でもチェックすればわかる筈だぞ? チェックしなかったのかー?
◎音楽

 新規一転。全曲をリニューアル。この辺りは権利の関係上仕方のないことかな。外注に新しく作らせて買い上げた方が旨味あるしね。というより、同人版のサントラですら、フリーの曲以外で未収録の曲あったわけだから同人のまま移植できるわけがない(笑)
 まぁ、原作よりも良いということはないけれど、悪いという程でもないかな。曲と共に思い入れのあるシーンとかさすがにキツイけど、許容範囲内だと思う。ぶっちゃけ、原作は作者自ら選び抜いたフリー曲、ひぐらしファンの精鋭有姿から提供された楽曲なのだから、それに勝てというのは無理。
◎ボイス

ひぐらしゲーム画面 原作からの組で一番期待していいところ。有名声優が揃っていて申し分ない。名シーンを声付きで思う存分堪能できる。これに関してはとにかくお疲れ様と。主人公のみパートボイスであったが、他はフルボイス。収録に何ヶ月かかったのだろう。良くやったよなぁと思う。
 この辺りは鉄板材料なのでとやかく言うものでもないのだけど、実際にプレイして一番目を引いたのはレナの中原麻衣さん。非常に良い仕事してます。あのレナのアレな感じを良くここまで表現したと。見事でしたわ。原作プレイしてもレナの声が中原さんで再生されるくらいですよ。
 あと注目していた大石の茶風林さんも◎。彼には渋い名シーンが多かったので、それを聞けてとても満足。
◎絵

ひぐらし画面 原作から一新。原作は非常に癖のある絵柄でしたが、それがとてもナチュラルに。原作をプレイした組からすれば、原作の方がひぐらしには合ってると思うけど、新しいユーザーの獲得という点においては成功していると思う。何せ、この手のゲームは絵柄が命である。第一印象でかなりの部分が決まる。確かに竜氏の絵柄の方ががひぐらしには合っているが、コンシューマ版としてならこっちの方がいい。
 キモである恐怖表現に関しても頑張っていたと思う。レナがぬらりひょんみたいでちょっと笑っちゃったけど、怖さは充分出ていた。
 いけないのが背景だ。原作は実写背景を加工して使っているが、今回は全て描きおこし。描きおこすのいい。外注であるメディアビジョンの仕事も問題ない。指定者がいけない。指定者が雛見沢の背景をキチンとメディアビジョン側に説明し、綿密な打ち合わせをすべきだった。原作の背景が持っていた不気味で排他的な空気がまるでない。単なる綺麗な田舎風景になっているのはどういうことよ。原作の絵を見せて、「お願いします」としか言わなかったんじゃないか。正直、これで随分と雰囲気変わっちゃったなーと思う。前が見えない霧の中を進んでいる感じが、一気に晴れちゃったみたいな。雰囲気を大事にしている作品なんだから頼むよ……。
◎総評

 なんだかんだ言ったけども、原作を未プレイの人で時間のある方は買い。お得感の強い作品なので、学生向きなのは間違いない。下手なRPGよりもよっぽど楽しめる。
 原作をプレイした人は、「お気に入りのシーンを声付きでプレイしたい」「手元に置いておきたい」人のみ買い。名シーンが声付きで楽しめるのは良いね。けど、「新たな原画」「新たな音楽」「新たな演出」「新たなシナリオ」「選択肢の追加」は買い材料にはなっていない。
 結局あれですよ。竜騎士07氏が監修して納得して発売したわけだからさ。批判があるなら、アルケミストではなく竜氏に向けられるべきなんだと思う。竜氏は様々なことに関して、もうちょいじっくり吟味する必要があったのではないか。漫画化やアニメ化、CDドラマ化は別物だから何も言わないけど、これは原作の移植なのだから。折角の優良コンテンツ、大事な財産、慎重さが欲しかったですよ。
 そう考えると、TYPE−MOONは凄いと改めて思う。あれが超成功したのは原作の凄さは勿論として、徹底したマーケティングにあるなと思った。恐るべし武内崇! 知恵先生がそのまんまな件も含めて!
2007年3月21日 記

特別編『ひぐらしのなく頃に祭』澪尽し編ネタバレレビュー

home